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JPEN


MATSUBA Collection


MARUEIDO JAPAN (2023年2月・東京)











Two Angles(松葉コレクションに向けての寄稿文)

例えば、私はマイノリティであるとか、私は人種の問題を抱えているとか、明確な「意思表示」が、今日の社会において重要な意味と役割を持ち始めている。強く訴え、理解を確立出来た者が市民権を得て、私たちの大元に働きかける。

上手く言えない者たちはどうなのだろうか。見えない過去や、分かりにくい理由がある者たち。黒にほんの一滴の白が入り込んだ、限りなく黒色に近いグレーを見分けることができる人間が、果たしてこの世に何人いるのだろうか。本人すら中々気付くことのできない「何か」が人と違うという理由で嘲笑やイジメなどを受けたことのある人は、この識別不能な色差に、苦しめられているのかもしれない。

今年3月(2022年) に、会社を立ち上げて、新しい融資を受けることができ、自宅にカーポートの増設を同世代の建築家の松葉邦彦さんにお願いしたのだが、とても興味深いことが起きた。松葉さんがデザインした図面に対して施工業者が見積もりを行ったところ、想定の倍近い金額になったのである。別段、松葉さんは特殊な材料を使ったというわけでもなく、従来の駐車スペースの形状に合わせた、むしろストイックに無駄の無いデザインを考えてくれていた。無論、価格に納得いかなかった私は、施工業者に問い合わせたところ次のような予想外の答えが返ってきた。

「松葉さんが設計した図面が全て1度か2度ズレているんです。それを職人が全て手仕事で作らないといけない。既製品を使うなら他にいくらでも値段を下げる方法があるのですが」

私はこの言葉を聞いたとき、震えるような感動を覚えた。

確かに、角度を90度に揃えることができるような既製品は、複製が容易なため価格を下げることができる。あるいは見るからに角度のついた特殊な仕様や施工には、コストがかかってしまうことは想像に難くない。しかし、一見気付かないような、ほんの数度の角度のズレにも、むしろ手間や摩擦、見えないエネルギーが必要となる。これは人間や社会に置き換えても同じことが言えるのではないだろうか。大きな声にできないものや、説明が難しいものは、そのたった1度か2度の分かりにくい角度のズレに苛まれているのかもしれなくて、逆にほぼ、そのズレや違いがわからない分、苦しみが大きいのではないか。

私たちにはまだシェアできていない感覚がたくさんあって、そのことが今日の不寛容や、誹謗中傷などの大きな原因となっていると私は考えていて、そのような今日にまだ難解だったジレンマの可視化を、まさか経済の中に発見するとは思いも寄らなかった。

僕は、松葉さんの今回の仕事は、建築の範疇を超えて、これからの社会問題の新しい視点を提起できる、そのような潜在力を秘めた偉大な仕事をされたのだと思っている。松葉さんの傑作を目の前に生活ができる私はこの上なく幸運だ。

(2022年11月)





angle 1
2023 Acrylic and Carborundum on Cotton
910×911mm
Private Collection
angle 2
2023 Acrylic and Carborundum on Cotton 1457×896mm
Private Collection



room 1
2022 Acrylic and Carborundum on cotton 335×243mm
Private Collection

film 2
2022 Acrylic and Carborundum on cotton 412×275mm
Private Collection


see
2021 Acrylic and Carborundum on cotton
611×411mm

line works 3
2015 Acrylic and Carborundum on cotton
727×606mm
Private Collection




◼️2022年11月に完成した松葉邦彦氏設計のカーポート


Photo : 広川智基

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